勝手に山田風太郎「忍法帖」ベスト10を選んでみた
今更ながら、山田風太郎先生の忍法帖シリーズにハマっています!忍法帖シリーズはエロとバイオレンスも特徴の一つですが、興味深く読んだのは、登場する忍者の数々の忍法や能力です。
忍法帖シリーズは、週刊少年ジャンプのバトル漫画の源流とも言われます。ジャンプ漫画は、主人公や敵キャラに様々なチート能力を付けて、いかにバトルシーンを描くかが面白さの鍵となっています。「ゴムのように伸びる」「時空を歪める」「何度でも生き返る」など、それこそ忍法帖シリーズでは様々な能力が登場します。へーこんな忍法よく考えたなぁ、と感じながら読み進めるのも楽しいかと思います。
それでは超個人的な好みなんですが、忍法帖シリーズベスト10を紹介したいと思います!
1位 銀河忍法帖(1968年)
いやー「銀河忍法帖」好きなんです。何が好きなのか考えてみましたが、主人公がいいんですよね。王道なんです。主人公は「六文銭の鉄」というんですが、とにかく明るくて強い!ジャンプ漫画でいうと、悟空やルフィと同じタイプです。
特に好きなのが、敵の伊賀忍者との最初のバトルです。山田風太郎先生は、敵忍者が特殊能力を獲得した背景を丹念に描きます。漫画でもありますよね、敵キャラクターの過去話を描いて、盛りあげる、感情移入させるアレです。が!銀河忍法帖の場合、主人公の「六文銭の鉄」はその敵忍者をワンパンチで倒してしまうんですね〜もったいぶったエピソードを紹介しながら、ワンパンですから、笑えます。
あとはなんといっても、クライマックスでしょう!山田先生は、このシーンを描きたいがために、物語を組み立てたのではと思わせるものが多いですが、「銀河忍法帖」はその典型です。いやーこんなラストあり?頭ぶん殴られた感じなリました。映像化不可、これこそ、小説ならでは醍醐味です。
2位 柳生忍法帖(1964年)
「柳生忍法帖」もめちゃくちゃ好きです。1位にしたいぐらいです。歴史物って、基本「史実」プラス「想像力」だと思いますが、この柳生忍法帖は、この「史実」の部分が何より面白いんです。
「柳生忍法帖」は「会津騒動」が骨格となっています。いやー知りませんでした、会津騒動。教科書に載っていませんもんね。
簡単に紹介しますと、3代将軍・家光の時代の話です。会津藩は加藤明成という藩主が治めていました。この加藤明成が、民衆には高い年貢を課し自身は贅沢の限りを尽くす典型的なダメ殿様だったんですね。
その明成に眉をひそめていたのが掘主水という家老です。先代から藩に仕えている重鎮です。明成とは元々折り合いが悪かったんですが、ちょっとした揉め事から蟄居を命じられます。その命令に反発した掘主水は一族郎党を率いてなんと脱藩。関所破りをするとき、若松城に鉄砲を放つオマケつきだったので怒りは相当なものだったんでしょう。その後、掘主水は妻子を鎌倉の東慶寺に預け、高野山に逃げます。 するとこちらも怒り心頭だった加藤明成が高野山と東慶寺に身柄を要求。捕らえた掘主水を処刑します…
ざっとこういう騒動なんですが、史実ながらドラマティックですよね。関所破りのシーンとか。
さらに山田先生が目をつけたのが、妻子が預けられた東慶寺です。東慶寺は男子禁制の寺で「縁切り寺」「駆け込み寺」と知られていました。
当時、東慶寺には天秀尼という女性住職がいたのですが、これが豊臣秀頼の娘だったんですね。そして、この天秀尼のバックにいたのが、家康の孫娘で、豊臣秀頼の正室・千姫でした。千姫は大阪夏の陣の後、処刑されそうになった天秀尼の命乞いをして、自らの養女にしていたんですね。
天秀尼は加藤明成の暴挙を受けて、幕府にこう訴えます。「古来よりこの寺に来る者いかなる罪人も出すことなし、無道至極なり、明成を破却させるか、この寺を退転させるか、二つに一つぞ」。いやいや凄い迫力です。
さて、山田先生は、この会津騒動に、どんな味付けをしたか?
上下巻と長いですが、中だるみもせず、一気に読めます。
3位 甲賀忍法帖(1959年)
忍法帖の一番最初の作品にして、一番人気が本作でしょう。忍法帖を読むなら、これを読んでおけば問題なし、「忍法帖」オブ「忍法帖」といえるのがこの「甲賀忍法帖」です。最近ではアニメやパチスロの「バジリスク」から知ったという人も多いのではないでしょうか?個人的にもこれをベストにしても、全然いいのです!!ただ、それじゃ面白くないよな…というへそ曲がりから3位にしています。
ぶっちゃけ本作で「忍法帖シリーズ」の基本型が出来上がっています。敵との集団バトル、奇想天外な能力バトル、悲劇的な展開、お約束のエロ要素。
のちのバトル物マンガに与えた影響もとてつもなく大きいです。甲賀忍法帖の出版の2年後には、横山光輝の「伊賀の影丸」の連載が始まります。この「伊賀の影丸」は敵忍者の能力などは、「甲賀忍法帖」で登場する能力と同じ、ということがままあります。「伊賀の影丸」は「鉄腕アトム」の「地上最大のロボット」や「サイボーグ009」にも影響を与えたといわれています。
さて、本作に登場する忍者の「能力」に注目しても、まあ厨二心をくすぐるものが満載です。ひとつは伊賀忍者「薬師寺天膳」の能力でしょう。倒せない能力を備えるチート忍者です。さらに、主人公「甲賀弦之介」の「瞳術」ですよねー。目から放たられる黄金の光。敵意を持って弦之介に向かっても、味方を斬るか、自身を傷つけてしまう…これまたとてつもないチート能力です。この瞳術、ジャンプ漫画の「NARUTO -ナルト-」などにも影響が見てとれますよね。
山田先生は、能力を出し惜しみしません。本作では、途轍もない能力を持った忍者もあっさり死にます。またAの能力はBに強いが、Cには弱い…組み合わせの妙で、単純な対決トーナメントにしない山田先生の隙のない構成も見事です。
そして甲賀忍法帖もクライマックスですよねー。山田先生は、ラストに絶品の文章を持ってくることが多いですが、「甲賀忍法帖」は何度読んでも泣けるのです。
4位 信玄忍法帖(1964年)
「信玄忍法帖」がなぜ4位かというと、数ある忍法帖の中で、一番好きな対決があるからです。それは、剣聖・上泉信綱と伊賀忍者・墨坂又太郎の対決です。
墨坂又太郎が使うは忍法「時よどみ」!甲賀弦之助と同じく、「瞳術」系の忍法です。墨坂又太郎の眼を見ると、時間の感覚が狂い、自分の動きがスローになります。あるいは止まります。こんなん、無敵でしょう。
「時よどみ」に絶大な自信を持つ墨坂又太郎が、上泉信綱と対峙した時、果たしてどちらが勝つのか?これね…決着のつき方が滅茶苦茶かっこいいんですよね。痺れます。この対決を読むだけで、満足です。
信玄忍法帖に出てくる猿飛天兵衛、霧隠地兵衛も魅力的な忍者です。ただこの2人、強いんですが、最後までどんな忍法の使い手か、よくわからないんですよねー。特に猿飛天兵衛は、JOJOでいうディオのザ・ワールドみたいな、時間停止系の忍法を使うんですが最後まで種明かしなし!えー?と思いますが、それがまた空想を掻き立てていいんです。
5位 風来忍法帖(1964年)
5位は埼玉県行田市にある忍城を舞台にした「風来忍法帖」です!でもねー「風来忍法帖」はとっつきにくいと思います。特に前半は、主人公の香具師(テキ屋)7人組の騙す、女を売り飛ばす…といった描写が続くので嫌悪感を抱く読者も多いでしょう。ただ後半に入ると、史実に基づく忍城の戦いへとなだれ込んで行き、怒涛の展開となります。
興味深いのは、史実の部分です。物語は、豊臣秀吉の「北条攻め」の戦のひとつ「忍城の戦い」を軸に進みます。この忍城は、小田原城の北条氏が降伏した後も、落城しませんでした。忍城には、男勝りに戦を戦った「甲斐姫」というお姫さまがいたと言います。最近では映画化された「のぼうの城」でこの忍城の戦いを知っている方も多いかもしれません。本作では実在した「甲斐姫」をモデルとした「麻也姫」がヒロイン役の美女として登場します。
香具師7人が天真爛漫な「麻也姫」を守りながら、超人的な忍法の使い手と対決していくのですが、果たして…
見所はやはり山田節が炸裂するクライマックスでしょう。このラストを読むために、それまでの物語があると言っていいと思います。
6位 伊賀忍法帖(1967年)
「伊賀忍法帖」の舞台は戦国初期。伊賀忍者・笛吹城太郎が妻を殺した松永弾正と配下の根来忍者僧7人に復讐をする物語です。
本作の一番の見所は、女性キャラ!!前半のヒロインである妻・篝火に後半のヒロイン・右京太夫そしてなんといっても強烈な悪女・漁火。ということで、恋愛要素高めですが、そこは忍法帖、根来忍者が作る怪しげな「淫石」が物語の鍵(笑)となっていきます。
「伊賀忍法帖」で恐らく山田先生が描きたかったのが、奈良の東大寺・大仏殿の焼き討ちでしょう。炎舞い上がる、大仏殿とその周囲で繰り広げられる魔人のような根来忍者との闘い。また果心居士と上泉信綱との闘いも見所のひとつではないでしょうか?
7位 自来也忍法帖(1965年)
自来也忍法帖のストーリーを引っ張るのは、やはり自来也の正体でしょう。白い頭巾、白羽二重の着流し、藤堂藩を巡る陰謀に、謎の忍者が立ち向かいます。果たして自来也は誰なのか?謎解き風の展開で、最後まで楽しめる作品です。登場人物は甲賀蟇丸に服部蛇丸、綱手…「NARUTO」好きならニヤリとしそうな作品でもあります。(まあどちらも元ネタは江戸後期の「児雷也豪傑譚」なのでしょうが)
個人的に好きなキャラは甲賀蟇丸でしょうか?名前の通り、ひきがえるのような顔をしていますが、忍者としてはかなりの使い手です。水面に映った顔に変装したり、死人の口を借りて話す奇怪な忍法を使ったりして、藤堂藩の婿養子で唖の徳川石五郎のピンチを幾度となく救います。ただ、無敵な感じではないんですね。仕事師タイプです。ドカベンでいう殿馬(古い?)、JOJOでいうブチャラティ(えっ違う?)。いやー好きなんですね、脇役で仕事を着実にするタイプ。唖の主人以上に、蟇丸は黙して多くを語りません。ただ、その姿に、なぜか涙してしまうのです。
8位 忍びの卍(1967年)
かつて日本のケータイ電話は、独自の進化を遂げてガラパゴス化していましたが、この「忍びの卍」は忍法がガラパゴス化していったら、どうなるのか?というのがテーマとなっています。
時は3代将軍・家光の時代。幕府隠密は根来・伊賀・甲賀の3派に分かれ、それぞれの忍法は独自に進化。弊害が現れるようになリました。そこで、大老・土井大炊頭が主人公・椎ノ葉刀馬に依頼したのが、3派から幕府隠密にふさわしい1派を選ぶこと。大役を担うことになったサラリーマン武士の運命は?という物語です。
例によって、個性的な忍者が登場しますが、今回は3人だけ。いつもの忍法帖と比べると控えめですが、その分それぞれの忍法が、深く掘り下げられていて、凝った構成になっています。
とは言っても、そこは山田風太郎。卑猥な忍法が次々と出てきます。一人は、舐めた女性の皮膚に快楽を与える忍法「ぬれ桜」。そして性交した相手に精神が乗り移る忍法「任意車」。あらゆる女性を魅了し欲情させる忍法「白朽葉」。
中でも面白いのは、忍法「任意車」でしょうか?ややネタばれすると、忍法「任意車」は使うと、1人の女性に精神が100%乗り移ることができます。が、物語の途中、伊賀忍者は2人の女性に乗り移ることを試みます。1人は30%の憑依。もう1人は70%の憑依です。果たしてどうなるのか?
またラストのどんでん返しに収斂していく、見事な構成も見所です。
9位 忍法封印いま破る(1968年)
「忍法封印いま破る」は、もうタイトル通りの作品です。主人公・おげ丸は野性味溢れた天才忍者なのですが、防御にのみ忍法を使い、攻撃は忍法を封印して戦います。その封印を解いたとき、果たして、どうなるのか?
おげ丸が封印を解くのは、物語のクライマックスです。この解かれた忍法が、「忍法帖シリーズ」の中でも、一二を争うチートぶり。最後のわずか数ページを読むために、この作品はあると言えるのかもしれません。
10位 魔界転生(1967年)
忍法帖シリーズの中でも「甲賀忍法帖」と双璧と言ってもいいのがこの「魔界転生」でしょう。角川映画でも有名ですよね!今回、改めて読み直してみましたが、確かに面白いんです。なのに、なぜ10位かというと、忍法がほとんで出てこないからです。要するに忍法帖ではないんじゃないかと…というか、普通に剣豪小説です。
宮本武蔵、柳生宗矩、柳生利厳、天草四郎、宝蔵院胤舜…山田先生の大構想は剣豪のオールスター戦をやってみようということではないかと思います。序盤は敵方が、剣豪を蘇らせ、どんどん仲間にしていく様子が描かれ、中盤以降は蘇った魔剣豪と柳生十兵衛が息をのむ対決を繰り広げていきます。
「室町」作品もおすすめ
さて山田風太郎先生は「忍法帖」シリーズ以外にも「明治」や「室町」を舞台にしたシリーズがあります。個人的には「室町」作品も好きなので、改めて紹介したいなと思います。